白鷹の自然を見つめてきた樹が語ること

白鷹の自然を見つめてきた樹が語ること 白鷹の自然を見つめてきた樹が語ること

KUROKOHAKUが生まれた白鷹町は、その面積の多くが森林に覆われている緑豊かな地だ。ゆえに古くから林業がさかんである。

山岳信仰が深く根付く地だからだろうか。伐採した木への感謝と、植樹した木々の豊かな成長を願う「草木塔(そうもくとう)」と呼ばれる石碑が、町内に散見される。この地域独自の祈りの文化が、今もなお根強く残っている証だ。

山脈にいだかれた盆地ゆえの、「夏は猛暑で冬は厳寒」という寒暖差が激しい白鷹の気候は、たくましく強靭な杉を育てるという。

元来、杉は材質が柔らかく加工しやすいことで、木材として多く活用されているが、白鷹の杉はその「硬さ」が特徴だ。

かつてはその堅牢な品質が評価されて、広く利用されていたというが、「量産しやすさ」を求める時代のなかで、需要は減少していたという。それゆえに白鷹の杉は、木材として活用することよりも適切な保全が促され、土壌に水が行き渡るための森、生物多様性を支えるための森として刻を経てきた。

今回、KUROKOHAKUにおいて箱の役割を担う杉の原木は、この白鷹の森から切り出し、分けていただいたものである。

長年、自然の循環の礎となり、森に生きる生物たちを支えてきた天然林の杉は、まさに白鷹の自然の一部を担ってきた存在だ。

原木に刃を入れた断面から湧き出るように放たれる薫りからも、それを如実に知ることができる。もともと杉の薫りは、人に癒しを促すものとして広く知られているが、白鷹の杉のそれは圧倒的。他産地の多くの杉と比較するとそれがよく分かる。

また年輪には、冬に刻まれる濃い線(冬目)と、夏季に刻まれる薄い線(夏目)の2種類があるのはご存知だろうか。

KUROKOHAKUの木箱を手がけた木工職人中川氏によれば、激しい寒暖差によって、夏目、冬目それぞれが、一般的な杉とは比べ物にならないほど、クッキリと浮かび上がっているのも白鷹の杉の特徴だという。

季節が自然に深く影響を与える置賜地方。その厳しい環境は、一方で自然環境としての豊かさでもある—。その表裏一体を受け入れることでしか、辿り着けない領域に白鷹は在るといっても過言ではないだろう。

囲まれた山脈から、天の恵みと土壌に秘めたる力を最上川に運ぶ。そして海へと辿り着いた水は、再び天に還り、山に雨として、雪として表れる—。

そんな循環の一端を長年担い続けてきた「自然の化身」である白鷹の杉と対峙するということ。それは、自然の理(ことわり)を感じ、森羅万象で形作られるこの世界の中で、人が、自分がどのように在るべきか考える契機となるような時間となることは間違いない。